ごきげんよう、まさきちです。
数年前の話です。
暦の上ではもう秋だけどまだ暑い日が続いていたある日、中学校の同級生から一本の電話がかかってきました。
以前会ったのはいつだったかすぐに思い出せないほどのなつかしい声でした。
久しぶりに会うことになったその古い友人は、困難な状況に陥(おちい)っていました。
今回は、中学の同級生の借金の依頼を断ったらひどい捨て台詞を吐かれた話です。
突然連絡してきた中学校の同級生
中学の同級生のHくんから「まさきちん家に遊びに行ってよか?」と電話がありました。
僕が「ごめん、今週の日曜は予定のある。土曜ならよかけど、Hはどがん?」というと、「明後日は都合よか?」とHくんはかぶせ気味にいってきます。
(平日に遊びに? 急かす感じで?)
違和感は感じましたが、久しぶりに連絡をくれた友人を無下にすることもできず、「一時間くらいならよかばい。ついでに昼ご飯でも食べに行こか?」と答えました。
Hくんが昼食はいらないというので、「じゃあ12時半ごろ待っとくわ」といって電話を切りました。
当日、早めに昼食を食べ終えて事務所で待っていたら、Hくんがほぼ時間通りにやってきました。
Hくんがただ遊びに僕の家へ来たわけでないことは充分に承知していたので、これからの展開に期待と不安を入り交じらせながらHくんを冷房の効いた居間に迎えました。
インターネットでも稼ぎよるんやろ?
久しぶりに会ったあいさつと手土産のお礼をいいながら、グラスに移したアイスコーヒーをHくんの前に置きました。
中学生のころのHくんは体が小さかったのですが、どんどん背が伸びてがっしりした体になっていました。
日焼けした太い腕に、その日着ていた薄いグレーのポロシャツがよく似合っていました。
しばらく昔話に花を咲かせていたとき、僕の携帯電話が鳴りました。
表示を見るとお客さんからだったので、Hくんに断って電話を取りました。
電話を切ると、Hくんが「稼ぎよるごたるね」とニヤニヤしながらいいます。
正直いって本業ではほとんど稼げなくなっていましたが、僕は「まあね」と軽く返事しておきました。
昔から笑顔の多かったHくんのことを「ニヤニヤしながら」と悪い様に感じたのは、僕がHくんに少し警戒しているところがあったからかもしれません。
すると、Hくんが唐突に「Sから聞いたばい」といいます。
僕が「Sが何いうたん?」と訊くと、Hくんは「インターネットでも稼ぎよるんやろ?」と、またニヤニヤしながらいいました。
お酒のせいで口が滑ってしまった
その年のお盆に、中学校のプチ同窓会がありました。
プチ同窓会は不定期で行なわれていて、大体3~5年に一度ですが、お正月やお盆に帰省している人が地元の居酒屋で飲むだけのゆるい集まりでした。
そのプチ同窓会で、Sくんから「ヤフオクでけっこう稼いでる」という話を聞きました。
Sくんの実家は園芸用具の販売をやっていて、在庫を処分するつもりで始めたら思った以上に売れ行きが良いので驚いた、みたいなことをいっていました。
Sくんの景気の良い話を聞いて、最初は黙っているつもりでしたが、「僕もネットでちょっと稼ぎよるんよ」といってしまいました。
2ヶ月くらい前からアフィリエイト報酬が入るようになったのは事実でした。
しかしまだ「ちょっと稼ぎよるんよ」と自慢げにいえるほどの額ではありませんでした。
お酒が入っていたので、つい口が滑ってしまったのです。
その後、Sくんとネットビジネス談義で盛り上がりましたが、あっちは本物、こっちはなんちゃってです。
下手なことをいうとボロが出るので、「お、おう」と適当に相槌を打ってやり過ごすしかありませんでした。
『人生の罠』に引っかかっていた同級生

HくんがSくんの話題を持ち出したあと、僕を訪ねた本当の理由を打ち明けました。
といっても何のことはない、ただの借金の依頼です。
やはりそういうことか、と僕は思いました。
プチ同窓会にHくんは出席していませんでした。
そしてHくんが長年勤めていた会社を辞めたという話を聞いていました。
Hくんの嫁さんが子供をつれて実家に帰っているらしいといううわさも聞きました。
Hくんに何があったのかはしりませんが、『人生の罠』に引っかかっていたことは何となくわかりました。
僕はお金を貸すつもりがまったくなかったので、借金の額も借金した理由もHくんに訊きませんでした。
その代わりに「一緒にアフィリエイトやらんか?」と切り出しました。
こいつはいきなり何をいいよるんや、という表情のHくんに、僕は「お金が必要ならアフィリエイトやってみんや? ほんと小額やけど僕もやっと稼げるようになった。稼げるまで時間はかかるかもしれん。僕が教えられることは全部教えるけん、一緒にやってみんや?」と真剣に訴えました。
Hくんが「時間がかかるってどれくらい?」と訊くので、「早くて3ヶ月、凡人の僕らは半年くらいかな」と答えると、話にならんといわんばかりのあきれ顔になりました。
障害者は金に困ることもなかとやろうが
今まで借金の返済に苦しんでいる人を何人か見てきましたが、何年も会っていなかった中学の同級生にまで金を借りに来るような人は、すでに月々の利息を返すのが精一杯の状況だったりします。
僕の週末に会おうかという提案を前倒しするほどですから、おそらくHくんも利息の返済期限が今日か明日、少なくとも今週中に迫っているのでしょう。
「3万でよかけん貸してもらえんやろか。必ず返すけんさ」と、Hくんはテーブルにぶつけんばかりに頭を下げていいます。
僕は「お金は貸せんよ。昔ちょっとあって、もう人にお金は絶対貸さんって決めたんよ」と、わざと淡々といいました。
昔あったことは「ちょっと」どころではありませんが、僕の愚か者ぶりを晒す必要もないので、「ちょっと」と濁しておきました。
「そこをなんとか」と食い下がるHくんに、僕は困った表情を作りながら「わるいな」とだけいいました。
そのやりとりを二回続けたあと、Hくんは「こいつはもう当てにできん」と思ったのでしょう。
「わかった、もう頼まん」といいながら、椅子からゆっくりと立ち上がりました。
そして吐き捨てるようにいいました。
「障害年金のあるけん金に困ることもなかとやろうが。働かんでも食うていける障害者がうらやましかばい」
ぶっきらばうな態度で帰る同級生
僕はHくんの無礼な捨て台詞に腹を立てることもなく、「もう帰ると?」と訊きました。
Hくんは僕を見ずに「うん」とだけ返事をすると、居間の引き戸に手をかけました。
Hくんとは違う高校に進学して以降は縁遠くなっていましたが、中学のときはくだらないことをやって一緒に大笑いしていた友人でした。
アフィリエイトを誘ったのも本心です。
実社会の知り合いとアフィリエイトをやるのは楽しそうだなと以前から思っていました。
アフィリエイトで成功した人が「お金に困っている者こそアフィリエイトに真剣に取り組む」みたいなことをいってたので、Hくんに最適だとも思ったからです。
しかし「早くて3ヶ月」とかアホみたいに悠長な僕の提案に、今週払う利息の工面に必死なHくんが耳を傾けるはずなどありませんでした。
玄関で靴をはいているHくんの背中に向かって、僕は「体が交換できたらHの借金も僕が背負ってやれるんやけどなぁ」とつぶやきました。
Hくんは僕のつぶやきが聞こえなかったのか、できもしないことを返事するのが面倒であえて無視したのか、ぶっきらぼうに「時間とらせてしもうたね。そいぎ」とだけいって、玄関を出ていきました。
小一時間前、玄関に入ってきたときのHくんのニコニコした顔がまぼろしのようでした。
行方知れずになっていた同級生
それから半年後くらいにSくんと偶然会う機会があったのでHくんとの出来事を話したら、やはりSくんのところにも借金の依頼にきていたそうで、今はもう誰も行方がわからないといっていました。
Hくんの借金の総額は300万円以上あったらしく、借金の理由はたぶんパチスロだろうといっていました。
SくんはHくんに30万円貸して1円も返ってこんやったと笑いながらいっていましたが、やはり稼いでいる男は器が大きいなと変なところで感心しました。
しかしうわさが本当なら、Hくんはパチスロで家族も居場所も友人も信用も(おそらく職も)失ってしまったことになります。
話はちょっと逸れますが、僕は日本にカジノができることを積極的には賛成していません。
しかしカジノ反対派がパチンコやパチスロに触れることなく、ギャンブル依存症対策云々を主張していることにすごく違和感を感じています。
既存のパチンコやパチスロをガンガン規制するような本気っぷりを見せてくれるなら僕もカジノ反対派を応援しますが、まだできてもいないカジノだけを規制しようとする偏った了見なので応援したくないのです。
それはともかく、パチスロがきっかけで『人生の罠』に引っかかったHくんの行方は今でもわかっていません。
Hくんの中学生のころの無邪気な笑顔を思い出すと、少し切なくなってため息が出ます。
以上、「借金の依頼を断ったら障害者がうらやましいと捨て台詞を吐かれた話」でした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
コメント
こんばんは
ブログランキングからの訪問です。
ひどい話ですね。
お金借りないで稼げって感じですね。
また訪問します。
さちりんさん、コメントありがとうございます。
稼いでも利息の支払いすら追いつかない状況だったのかもしれません。
借金はほんと「人生の罠」ですよね。
引っかからないようにお互い気をつけましょう。
またの訪問をお待ちしています。
こんにちは、ランキングから来ました。
借金で困っているのは分かりますが、本当の親友などには逆に頼めないですよね。
それ以外の人には、頼んでも帰ってこないと思っても良いのかも。
こばみちさん、コメントありがとうございます。
おっしゃるように、お金を借りに来た時点でもう友人関係はおしまいだと思います。
それに貸すときもあげるつもりで貸さないとけないとはよく聞きますよね。