ごきげんよう、まさきちです。
20年ほど前、障害のある仲間とバリアフリー推進活動を一生懸命にやっていました。
日頃は自分たちだけでゆるく活動していましたが、ほかのグループと共同で活動することもたまにありました。
今回は、バリアフリートイレ設置のお願いに行ったら、圧力団体呼ばわりされてしまって衝撃を受けた話です。
バリアフリートイレ設置のお願いに
僕の住む市の端っこに大きな病院があります。
昔から建っている総合病院です。
その病院が改築するという話を以前から聞いていました。
当時、僕は障害者への理解とバリアフリーの推進を目的に活動するグループに入っていて、けっこうまじめに活動していました。
ある日、グループの代表のAさんから連絡がありました。
その改築する総合病院にみんなでバリアフリートイレの設置をお願いに行くので、まさきちさんもぜひ参加してほしい、という内容でした。
Aさんがお世話になっている人から依頼されたそうで、いつもに比べて言葉に圧力を感じます。
僕もAさんには日頃お世話になっているし、バリアフリートイレが増えるのは僕にとってもありがたいことなので、平日午後の集合でしたが快諾しました。
大勢の障害者と共に病院内へ
集合場所である病院の駐車場へ指定された日時よりちょっと早めに着きましたが、すでにたくさんの障害者が集まっていました。
僕も含めて15人ほどいたと思います。
知った顔も知らない顔もいました。
僕のような車椅子乗りの身体障害者のほかに、白杖を持った視覚障害者、聴覚障害者や内部障害者にボランティアの人も来ています。
全員がそろったあと、今回の集まりの代表らしい車椅子に乗った女性を先頭に、ぞろぞろと建物の中へ入っていきました。
代表らしい女性をGさんとします。
Gさんの『G』は『傲慢のG』です(理由は後述します)。
Gさんが受付で訪問の予約を告げると、課長の肩書きを名乗る男性が事務所から出てきて、院長室まで案内してくれました。
頭数をそろえるために呼ばれたくらいの気持ちでいた僕は、お気楽にAさんとおしゃべりしながら、皆さんのあとをついていきました。
嘆願に来たつもりが事態が急変
院長室に通されましたが誰もいなかったので、課長が「ちょっと呼んできます」といって出ていきました。
けっこう広い院長室でしたが、車椅子5台を含む15人もいるとさすがにせま苦しく感じます。
課長が戻ってきて5分ほど経ったとき、お待たせして申し訳ありませんといいながら、白衣を着た温和そうな顔立ちの副院長が部屋に入ってきました。
院長が急な用事で出ることになりまして代わりにわたしが、みたいなことを言いながら、副院長は高級そうな革張りのソファに座りました。
代表のGさんが、お忙しいところお時間を取ってくださりありがとうございました、と謝辞を述べたあと「さっそく本題ですが」といって、バリアフリートイレの話題に入りました。
僕は今回の集まりは、「様々な種類の障害者が来院するのでバリアフリートイレ設置の際は配慮をお願いします」と、「嘆願」に来たものと思っていました。
ところがGさんは「手すりは便座から何センチの高さですか?」とか「非常スイッチは何か所ありますか?」などと、何やら細かいことを訊き始めるではありませんか。
施工業者でも図面を見なければわからないそんな質問を、副院長や課長が答えられるわけがありません。
副院長や課長はもちろん、僕やAさんも突然の事態に困惑しました。
あなた方は圧力団体ですか!

するとGさんが今度は、図面を渡してくださいと言い出しました。
「知り合いにバリアフリー工事を専門に手がけている設計士がいるので、その人にこちらの工事の図面が適正かどうか判断してもらいます」
何を言ってるんだこいつは、と僕は思いました。
Gさんの後ろにいたので表情はわかりませんが、上から目線で実に傲慢な物言いでした。
Gさんを『傲慢のG』と呼んだ理由です。
副院長が座っているソファの後ろに立っている課長と目が合いましたが、課長も同じことを思っていそうな表情でした。
副院長を見ると、先ほどまでの温和な笑顔はすっかり消えていました。
そしてソファから腰を浮かさんばかりに前のめりになって、怒気を含んだ声で言い放ちました。
「僕は障害のある人たちがバリアフリー設備を整えてくれるようにわざわざお願いに見えられたと聞いて、ご安心ください、きちんとやりますよ、とお答えしようと思って来ました。それが何ですか、いきなり図面をよこせとは。あなた方は圧力団体ですか! 忙しい中、時間を作って来たのにそれは失礼でしょう!」
副院長の怒りはごもっともです。
課長は泣きそうな顔でオロオロしています。
となりにいたAさんを振り向いて見たら、もともと色白なAさんの顔が、血の気が引いてさらに蒼白くなっていました。
ショックを受けたあと僕のターン
僕は副院長の「あなた方は圧力団体ですか!」の言葉に、何よりショックを受けました。
僕の所属するグループでは、バリアフリー推進活動をやるときに、そういう風に思われることだけは避けようと気をつけてきました。
それなのにまさか、ほかのグループの応援に出かけた先で圧力団体呼ばわりされるとは思いもしていませんでした。
Aさんが顔面蒼白になっていたのは、僕と同じ理由で大きなショックを受けていたからかもしれません。
ところがGさんは僕たちの動揺を気にかけることなく、まだ副院長に食い下がっていました。
僕はGさんの言動を止めるために、強い口調で諭(さと)しました。
「Gさん、僕は今日バリアフリートイレの設置のお願いに行くと言われたので来ました。それがなんで図面を渡せとかいう話になっているんですか。どういう権利があってそんなこと言ってるんですか。人にものをお願いする態度じゃありませんよね。Gさんは何様ですか。そんなこと言うのおかしいですよ」
覚えている限りでは、僕はそんなことを言ったと思います。
Gさんは自分側のグループの者から咎(とが)められるとは微塵にも思ってもいなかったようで、すごい勢いで振り返って、すごく驚いた表情をして僕の顔を見ていました。
って、すごく驚いたのは僕の方ですよ。
ムカムカしてヤニの臭いにもムカムカ
“内紛”を始めた僕たちを見て副院長はもう付き合いきれないと思ったのか、「忙しいので失礼します。あとは頼みます」と僕たちと課長に言って引き上げてしまいました。
課長は何も悪くないのに、申し訳ありません申し訳ありません、と何度も謝りながらペコペコと頭を下げていました。
僕もAさんもお詫びとお礼を言って副院長を見送りました。
Gさんは反省しているのかふて腐れているのかよくわからない表情で佇(たたず)んでいます。
副院長が出ていったのでもうこの部屋にいる必要はないし、僕はこれ以上Gさん(とそのグループ)と一緒にいたくありませんでした。
圧力団体のメンバーと思われるのなんてまっぴらごめんですからね。
Aさんに「僕もう帰ります」と伝えて、課長に「お騒がせして本当に申し訳ありませんでした」と謝罪したあと、誰よりも早く院長室から出ました。
エレベーターがちょうど来ていたので、さっさと僕一人だけ乗って一階へ下りました。
いろんな感情がごちゃごちゃになって、よくわからないけどとにかくムカムカしていました。
病院の正面玄関の横に喫煙所があって、そこで入院患者がたばこを吸っていたのですが、ヤニの臭いが鼻についてさらにムカムカしました。
自信に満ちた傲慢ぶりに納得
その日の夕方、Aさんからとんでもないことに巻き込んでしまったねと謝罪の電話があったので、僕も大人げない態度を取ったことを謝りました。
Aさんが言うには、GさんはHさんの代理で来た人でした。
HさんはAさんがお世話になっている人で、もう20年ぐらい障害者に関する啓発活動を行なっている視覚障害のある男性でした。
Hさんは前日体調を崩したそうで、急遽Gさんが代わりに来たということでした。
僕がAさんに、なぜGさんはあんなことを言ったんでしょうねと訊いたら、Hさんは強引な交渉を得意とする人なので、メンバーのGさんも同じ手法を取ったのかもと答えました。
Hさんは今日のように大勢の障害者を引き連れて市役所に乗り込み、担当じゃ話にならん、上司を呼べ、図面をよこせ、こちらの要求をいつ完了するか約束しろ、と強く迫るそうです。
そのやり方で数多くの実績を上げているそうで、新聞に取り上げられたり講演に呼ばれたりしているということでした。
あのGさんの自信に満ちた傲慢ぶりは、実績に裏打ちされたものだったのかと納得しました。
しかし副院長は「あなた方は圧力団体ですか!」と僕たちを非難することができましたが、市役所の職員は『市民』にそんなこと言えないから大変だなと思いました。
多少強引にやらないと社会は動かない?
僕はAさんに、今後Hさんのグループが絡む集まりには絶対に参加しませんと伝えました。
Aさんも「僕もああいうのはもうごめんだよ」と理解してくれました。
その後Gさんと会う機会はありませんでしたが、地元の新聞でHさんのグループ名と代表であるHさんの名前を見かけることがありました。
県の新しい事業のバリアフリー監修にHさんのグループが協力するという内容でした。
格安航空会社バニラ・エアの車椅子搭乗問題が騒動になったときも思いましたが、やはり多少は強引にやらないと社会は動かないものなのかも知れないなと。
まあ、小心者である僕やAさんは当たらず障らずの活動しかできませんでしたが。
それからいろいろあってAさんのグループが解散し、ほかの障害者グループに入りましたがそこの代表は問題のある人物でゴタゴタし、もうグループでやるのは懲り懲りだと思って、今は一人で気楽にブログなどを書いている次第です。
以上、「バリアフリーのお願いに行ったら圧力団体呼ばわりされ衝撃を受けた話」でした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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